私より5つ年上で、正義感が強いから周囲とのトラブルも絶えなくて、そのため彼の部下になった人はいつも周囲との調整に振り回されて、疲弊しながら別の部署に移っていくと言う。
でも私はそんなもったいないことしない。私は眼鏡の似合う主任が大好きだ。
主任の横顔を思い出すだけで幸せになれる。
にへらっ、と笑うと頭をグシャグシャと撫でられた。
ああ、これ主任の手だ。幸せな夢だ。まだ、もうちょっと、見ていたい。
離れていこうとする手をつかんで引き寄せる。
ふふっ、夢だから、この手は私のものだ。
ほっぺにぎゅっと手を押し付けて、胸に腕を抱え込む。
そうだ、こんなことができるくらい主任は近くにいるはずだ。
目を開けようとしたとき、唇に何かが触れて、熱く濡れたものが割り入ってきた。
それは私の口内を蹂躙するように蠢いて、舌を絡め、口蓋を撫でる。
同時に、体の上に何かが乗ってきた。重たい。仕事の書類だろうか。
いけすかない先輩に資料作成を命じられたことを思い出す。
明日の会議に間に合わせるよう今日中に仕上げろと言われたが、その先輩は残業もそこそこに帰宅しており明日の会議も延期になっており、予定変更を聞かされずに没頭していた私の成果は無駄になった。
完成した資料の提出先がないと聞かされ、呆然としたものだ。
それでも、先輩を探してた私に事情を教えてくれた主任は私の資料を確認してくれて褒めてくれた。
会議は延期になったが早々に次の日程が決まるだろうから、私の資料を使ってくれると約束してくれた。それだけで報われた気持ちになった。
口腔を塞がれて苦しいが、くすぐったさと気持ちよさでため息をつくように笑う。
耳のあたりがザワザワする。
やめて欲しくない。夢でも、主任と一緒にいられるなら幸せだ。
「起きろ、佐々木」
すごく近くで主任の声が聞こえた。
不機嫌そうとも少し違う。目をあけると真面目な顔した主任がこちらを見ていた。
まだ夢かな。まだ起きたくないな。
「お休みなさい」
何か思考が定まらない。まだ眠い。まだ夢だからだ。
そう思いながらまた目を閉じる。
「あ、こら、佐々木」
焦ったような主任の声がおかしくて笑ってしまう。
目の前で大きなため息が聞こえた。
「起きろって。じゃないと俺は犯罪者だ」
「んー、眠いです。主任は犯罪者じゃないです。グッジョブ主任」
「お前は何を言ってるんだ」
やけにリアルな夢だ。でも会話が変だ。成立してないのにちっとも苦しくない。どういえば伝わるかとか、そんなこと考えなくて済む。夢の中の登場人物に怒られることもない。この夢最高。主任がいる。
眠くて瞼が持ち上がらない。薄目になったまま、目の前にいる主任に抱き着く。
腕を彼の首に巻き付けた。
温かな体温がまた嬉しくて笑う。
「どうしてそこまで危機感がないんだ。襲われてるんだぞ、お前」
眉根を寄せる不機嫌な表情が目に見えるようだ。
私は笑いながらもっと、と抱き着く。
自分にかかる重みが更に増えて、熱が伝わってくる。襲われてる、という言葉に首を傾げる。
「主任だったらいいでーす」
「は?」
「大好きな主任だったらノープレブレーム。どうせ現実では綺麗な恋人に叶わないし、夢の中だけでも幸せ満喫します~」
会話は、続かなかった。
沈黙の後に訪れたのは口付け。
先ほどと同じ濃厚なやつ。
先ほどと同じように熱が籠る。少し痛いぐらいに、主任の手は頬を触ったりおでこを触ったり、耳たぶを摘まんだりしてくる。顎から首筋にかけてを撫でられると、妙な感覚が体を走り、咄嗟に顔を背けてしまう。うっすらと目をあけると主任が真っすぐにこちらを見ていた。その真剣な表情に、ごくりと喉が鳴る。
「同意したと受け取るぞ」
「え?」
「いい。色々ともう限界だ。明日の朝、お前の意識がはっきりしてからまた口説くからいい」
やばい、ときめく。現実の主任は絶対にこんなこと言ってくれない。
それも私に対して、こんな甘い言葉なんてかけてくれない。
頬を撫でられながら首筋に吸い付かれた。主任には綺麗な恋人がいると聞いた。去年の歓送迎会に現れ、話題騒然だったと聞いた。私はそのとき熱を出して会社を休んでいたから、見れてはいない。もしかしたら何かを察知して体が防御反応で熱を出したのかもしれない。後で先輩からこの話を聞いて、会社を休んでて良かったと思ったものだ。主任の恋人など見たくない。
リップ音を立てながら色んなところに口付けを落とされ、不思議な感覚に身を捩らせる。
主任の腕に支えられながら上体を少し起こすと、器用なことに服の上からブラジャーの留め金を外された。窮屈だった胸が途端に開放され、そしてあっという間に上下の合わせから抜き取られる。
途中、また濃厚な口付けを受けていて、小さな喘ぎは彼の口の中に吸い込まれた。
「ふぁっ」
大きな手が服の上から胸に触れてくる。
柔らかな乳房に優しく指を沈ませ、胸の頂を擦ってきた。
「あ、あ、っ」
急激な刺激に、咄嗟に主任の体を突き放そうとしたが、全然動かない。
微かな笑いが聞こえた。
「もう遅い。でも、今だったらまだ止めてやれる。起きるつもりはないか」
ブラジャーを剥ぎ取られていたから少しの刺激も直接肌に伝わるのか。
下腹部に熱が集中するのが分かって、次第に体が痙攣するように跳ねてくる。
耳元で囁かれ、微かに涙目になった私は、それでもかぶりを振った。
正直、何を言われているのか分からない。気持ちよさを殺すことに精一杯で考える余裕がなくなってくる。
「そうか。残念だな」
絶対、残念なんて思ってない。
笑いを含んだ声音にそう思う。
爪をたてて引っ掻くように擦られて、嬌声をあげる。
自分の口から洩れるそんな声が恥ずかしくて口をふさぐと、あっという間にその手を取られた。
「何もったいないことしてんだ。我慢しなくていい」
「あ、で、でもっ」
腕をつかまれ、反対の胸を擦られる。
生地越しなので痛みなどまったくない。
「や、やだ、なんで」
擽られ、喘ぐ様子を真剣な表情で見られている。それが恥ずかしすぎて、必死にかぶりを振る。けれどその視線が外れることはない。それどころか追い詰めようと、至る所に触れてくる。
「そっちはっ」
主任が触れようとしているところに気付いて息を飲んだ。
先ほどから繰り返される愛撫にしっかりと反応して潤い始めた場所。
主任は一度私を体ごと抱え込んで持ち上げた。
「え」
彼の胸板に胸があたり、その刺激すらも気持ち良い。
いつの間に着替えたのか分からないがなぜか私は上下ともシルクのようなつるつるのパジャマを着ていて、主任に抱かれるまま、そのシルクの下を剥ぎ取られた。手触りの良い生地が素肌を滑っていく。
しっかりと主任の肩口に抱かれたまま、ビクリと体を震わせた。
指が、密着した二人の肌を割るように脇から入ってきて、腹を撫でながら中心に到達する。
ショーツの上から細かく主任が中心で指を震わせた。
「んっ」
ぎゅっと目をつぶってその感覚に耐える。
カリカリと爪を立てられても、こちらも生地越しなので痛みはない。
――足りない。
そう思ってわずかに足を自分から開いたとき、指が強く押し入れられて撫でさすられた。
「ひあっ、あ!」
体が大きく跳ねる。主任にしがみつくとガッシリと腰を抱かれ、少しも逃げられなくなった。
グリグリと強めに愛撫されたのちは指が離れる。
ぺったりと花芯に張り付いたショーツが抵抗を失って隙ができる。力を入れず、軽く擽っていくだけの愛撫に変わると、ドッと汗をかいた。主任にしがみつく手に力が入る。濡れた場所が、先ほどと同じ強い刺激を欲するように脈打つようだ。
カリッ、と不意に爪を立てられ、体が跳ねる。
「や、やだ、主任」
腰が勝手に動くのが恥ずかしくて泣きそうになる。
カリッ、カリッ、と一定の速度でしか刺激をくれず、太ももをすり合わせてしまう。
「んんんっ」
硬く目を瞑り、体を震わせる。
「――っ」
指先ではなく曲げた関節でグリッと強く刺激され、声も出せずに飛び跳ねた。
目の前がチカチカする。体が熱くて、何をされているのか良く分からない。
あれ、これは夢だったはず。でも生々しすぎる。主任の夢で幸せだったけど、ちょっと待って、今はどういう状況なの。
短い呼吸を繰り返していると首筋に顔を埋められた。
「佐々木……」
主任の体が熱い。身動きできないほど固く抱きしめられて、その熱い囁きだけで心臓が早くなる。
私の足に当たっている、ひときわ固くて熱いもの。それはきっと主任のあれだ。このまま彼に抱かれるんだ。
嫌悪感も拒否感もなく、ただそう思った。
私の首に唇を吸いつけたまま、主任の手がショーツを脱がせる。器用だと思う。
篭っていた熱が霧散する。
ぴったりと閉じていたそこを主任の指が少し強引に分け入ってきた。
ほんの少し違和感を感じた次の瞬間、花芯に触れた指が、自分にも分かるぐらいぬるついて滑り出した。
「あ、やっ」
卑猥な音が響いて、ショート越しではない刺激に腰が浮く。
「すっげ……トロトロ」
「いわ、言わない、でっ」
どんどん溢れてくるものをぐちゅぐちゅと花芯に擦り付けられる。
「ああ……っ」
浅いところに指が入り、入口を擽るように探られるとまた体が跳ねた。
自分の体なのに、全然思い通りにならない。
呼吸が荒く激しくなり、体も汗ばんでいく。
主任から何かを囁かれた気もするけど、正直、上の空で指の感覚だけを追いかける。
嬌声が止まらない。ボロボロと涙が零れてきて、小さい波に何度も打ち上げられる。
不意に指が抜かれ、目を瞠った次に、指とは比べ物にならないほど熱いものが強引に入って来た。
一瞬で息が止まる。驚いて目を開けると、壮絶な色気を醸した主任が私の前にいた。
辛そうに眉を寄せて腰を進めてくる。
慣れない圧迫感と内壁を擦り上げてくるそれに、あっという間に果てた。
「くっ」
内壁が蠢いて絞り取られようとすることに主任は奥歯を噛み締めていたようだが、ふと目を開き、私と目が合うと、これまで見たこともない優しい眼差しで笑いかけてきた。
「ぐっ、待てっ」
焦ったような声で主任が苦しそうに前のめりになる。
その拍子に私の中で当たる場所も変わり、私ももがくように両手をさまよわせる。
「ああっ」
両腕を取られ、腰を突き上げられ、何がなんだか分からないまま、また果てる。
呼吸が苦しい。それでも主任はまだ終わってなくて、ゆっくり突き上げながら奥まで到達する。
私はもう虫の息だったが、主任は容赦してくれない。
そのまま静かに揺らされ、壁に擦り付けながら奥を押される。身を捩って逃げようとしても、腰をつかまれたままなので無理だ。そのまま二度、私だけ強く高みに押し上げられる。もう無理、限界、辛い、いきたくない。そんなことを泣きながら訴えた気がするけど、記憶があいまいだ。
まったく笑ってない目が肉食獣のようにギラギラとこちらを捉えていた気がする。
眠りから浮上したときのように、私の意識が再び闇に呑まれていこうとする。
「……や……も、んん……」
律動のさなかに尖った胸の頂を弄ばれ、充血した花芯を愛撫されたり。
そのたび、無意識に喘ぐ自分の声が耳奥に残る。そして、体の奥で熱いものが弾けたような気がした、そんな感覚を最後に、私は恐らく気を失った。
「なんで、まだ主任に抱き締められているんでしょう……」
「あれは夢じゃないし、あれだけじゃ俺の熱がおさまらないからだ。目が覚めたなら状況整理は得意だろう、ほら、まずはこれにサインしろ」
「……あの、これは“婚姻届け”に読めるんですが、私はどこの欄にサインすればいいんでしょう……」
「渡辺巧の隣に恵とサインしろ。それ以外は俺が何とかする」
「あの、胸。手をどけてくれないとサインできません」
「あと5分だけ猶予をやる。それ以上かかったら先にお前を抱き込む」
「あのっ、ちょ、状況整理とかっ、全然っ。てか今は朝っ」
「今日は土曜で休みだ。昨日、仕事あがりにビール一本で潰れたお前を俺が担いで連れてきた。ついでに俺の恋人だとかは隣の部署の大西で、歓送迎会の余興に限っての女装だ。朝だから何だ、ビール一本で潰れたお前に無理強いせず待ったんだから、ご褒美をくれ」
「主任がご褒美とかってっ」
「昨日のタイミング狙ったのは俺だけど、嬉しそうな顔したお前も悪い。我慢しきれなかった責任取る。そもそも体から始めるつもりなんかなかった。お前は優秀過ぎてこっちの段取り狂わせすぎる。ほら、もう5分経つぞ。今書くのか、後で書くのか」
「――っ、私もアルコールが抜けてすっきりした頭でまずは主任を堪能しますっ」
色々とアレなところはあるけど顔を真っ赤にさせながら振り返ってみると、私以上に真っ赤になった主任の顔があって、ああ、大好きだ、と思った私はそのまま書類にサインしてから抱き着いた。